つないだ小指にかかる重圧
ゆびきり
「ねえ、明日さ、あれ見に行こうよ」
二人で見たがっていた映画。CMが流れ始めた頃から、絶対見に行こうねとはしゃぎあって
でも結局部活だテストだと、気付けば公開から3週間。
なんだか、気落ちして口に出す事さえはばかられていたその話題を、ふと彼はふってきた。
「…そういえば、もうすぐ公開終了だもんね…。明日、部活も無いし」
行こうか、と言えばまるで犬ころの様に大袈裟にしっぽをふって喜ぶ。(しっぽはないけれど)
何時の回にしようか、パンフレット買っちゃう?ポップコーンより、マック持ち込むほうがいいよね
次々に計画を浮かべては明日の目を輝かせる君を、少し羨ましくも思うし、疎ましくも思う。
待ち合わせの場所はどこで、何時に。
うん、うんとうなずきながら、時間と場所とを思い浮かべるけど
あまりその風景が現実的で無くて、メモをとりながら考えた。
(明日、…行かなかったらどうするかな)
(英二、怒るかな)
携帯から流れるアラームにぱっと目が開いたけれど、すぐに横のボタンを手探りで押して、音を止める。
約束の時間まで、あと1時間。
起きて、血圧があがるのを待って顔を洗い、服を着替え
最寄の駅まで自転車で。全部の行程を終えても、たっぷり15分は残る。
でも僕は動かなかった。
布団の中は暖かい。毛布の手触りはうっとりする程だ。おまけに外は寒い。
だけど理由はそんな事じゃなくて、本当におかしいことだけれど、
僕は約束を破ってみたかったんだ。
英二との、約束を。
それは何かいけない事をするようで、一秒一秒過ぎてゆく度に、心臓が脈打つ音が煩く
毛布の端を握り締めて浅く息を吐いた。
僕が来なかったら英二はなんて言うだろう。
待ち合わせのそれより容易に想像出来るその風景を浮かべながら、もう一度目を閉じた。
何回か携帯が震えるのも無視して。
起きたのは四時間後。
妙に身体がダルいのは、彼が怒ってるからか
ただ単に寝すぎただけなのかも、寝ぼけた頭ではよく理解出来ないまま目にした携帯の画面には、
そんな脳みそを一気に活性化させる一言が送られてきていた。
「 」
顔面蒼白とまではいかないけれど、それは僕を行動させるのに充分な言葉で
適当にその辺にある服を掴んでひっかけて、洗顔すらおざなりにして、自転車の鍵も持たず家を出た。
片手でフラフラと運転しながら、開いた携帯に新しいメッセージは無くて
起きてすぐに返事を打ったけど、やっぱり、もう。
僕は今とてもドキドキしている
「…変な頭]
神様か何かが邪魔するのか、吹き荒れる風の中自転車をこぐとそうなる。髪はぐしゃぐしゃ。
そういえば台風だったっけ、と僕は昨日見た天気予報を思い出していた。
「風が強くて」
窓を見ながらうねる毛を押さえていると、英二は立ち上がっていった。
「…それが三時間も送れた理由。」
あきれたという感じでも無くて、ただたんたんと呟かれて本当にこわかった。ああ、やっぱり怒っている。
小指をぎゅっと握る
「…そうだよ。ごめんね(嘘だけど)」
はあ、と一息吐いた後、すーっと手が伸びてきて、握り締めていた小指を解かれて
そこに彼の小指が絡みついていた
「ゆーびきりげんまん、今度遅刻したらバツとして購買で焼きそばパン10個おーごる。」
ゆびきった、そう言った瞬間ぱっと解けて、ずしりと何かが重くのしかかる。
調子外れのリズムにのせて交わされたそれ自体は大した事では無いのに。
もう帰っていると思っていたのに、予想外の行動に僕は彼をみくびっていた。
寒空の下で、何の確証も無いものを待ち続けるなんて僕には出来ない。
けれど、英二にとって僕が確証であるのならそれは
とてもこわいことだと思った
簡単に小指を絡ませて、そこに重いものをぶらさげる事も。
そんな事をされたら僕はもう、その重みで逃げられない。
君自身と
君を好きかもしれない、という自分の気持ちから。
…Fin…